赤ちゃんの健やかな成長を願って行うお食い初め「(おくいぞめ)」は、日本古来の伝統儀式です。
必要な準備から具体的なやり方、儀式が終わった後の食器の使い道まで、わかりやすくまとめてご紹介します。
お食い初めはいつ・なぜやるの?由来と込められた意味
お食い初めは、赤ちゃんの生後100日前後に「赤ちゃんが一生食べ物に困らないように」という願いを込めて行う伝統儀式です。
赤ちゃんが初めて食べ物を食べる(食べさせるマネをする)ことから「お食い初め」といいます。
お食い初めの起源は平安時代で、生後50日にお餅が入った重湯(おもゆ)を口に含ませた「五十日の祝い(いかのいわい)」が始まりといわれています。
その後、日数は50日から100日に、料理は餅から魚に変わっていったようです。
お食い初めには別名がたくさんあり、「箸初め(はしぞめ)」「箸揃え(はしぞろえ)」「箸立て(はしたて)」「歯固め(はがため)」「真魚始め(まなはじめ)」「百日祝い(ももかいわい)」などと呼ばれることもあります。
「生後100日」の数え方
母子手帳などに記載されている生後日数は「生まれた当日を0日、翌日を生後1日」としてカウントしますが、お食い初めでは「生まれた日を生後1日」とします。
一般的な数え方より1日早く「100日目」が訪れる計算になりますので、日程にこだわる場合は注意しましょう。
100日目に間に合わなかったら、いつまでにお祝いすればいい?
お食い初めは生後100日前後に行うのが一般的ですが、子育てに追われながらの日々はあっという間に過ぎてしまいます。
準備が進まないまま100日目が目前に迫り、焦っている方もいるかもしれません。
しかし、お食い初めには「いつまでに行わなければいけない」という決まりはないのでご安心ください。
お食い初めで一番大切なのは「赤ちゃんの健やかな成長を願う気持ち」ですから、多少遅れてしまっても問題ありません。
100日目以降の土日や祝日、縁起のよい大安などの吉日を選んで行うご家庭も多いようです。
また、一部地域ではあえて120日目以降の吉日にお食い初めを行う風習があります。
これを「食い延ばし」といって、お食い初めの日を延ばすことで長生きできるといわれているそうです。
お食い初めに必要な準備
近年ではお食い初めの儀式を簡易的に済ませるご家庭も多くありますが、伝統的な方法で行う場合は食器や料理などの用意をする必要があります。
赤ちゃんのお世話をしながらだと、ちょっとした用事も予定通りには進まないものです。
できるときに少しずつ準備を始めておきましょう。
どこで、誰とするか決める
お食い初めは、大きく分けて「料亭・レストランなどのお店でする場合」と「自宅でする場合」に分けられます。
それぞれにメリット・デメリットがありますので、一緒にお祝いする家族や親戚とよく相談して決めましょう。
ゲストは両家の祖父母やおじ・おばなど、近しい親戚を招くのが一般的です。
料亭・レストランなどでする場合
お店でお食い初めをする場合は、予約を済ませれば手間のかかる準備は不要なのが大きなメリットです。
土日祝日や大安などの吉日は人気が高いので、早めに予約しておきましょう。
時間も手間もかからない代わりに、お祝いする大人の人数が多くなるとどうしても出費はかさみます。
赤ちゃん連れのお出かけはおむつや着替えなどが不可欠なので、荷物の準備はしっかりしておきましょう。
主役の赤ちゃんが当日体調を崩したりして行けなくなった場合、お店によってはキャンセル料を取られてしまうデメリットもあります。
自宅でする場合
自宅でお食い初めをする場合のメリットは、なんといっても「気がラク」ということ。
赤ちゃんにとっても大人にとっても慣れた場所なので、心置きなくお祝いムードを味わえます。
授乳やお昼寝もすぐにできますし、万が一服を汚してしまった場合もすぐ着替えられるので安心です。
料理をすべて手づくりすれば、費用も安く抑えられるでしょう。
とはいえ、人数分のお祝い膳を一から準備するのはなかなか大変です。
事前にレシピや材料を確認して、手づくりが難しそうなら宅配や仕出し弁当を利用することも検討しましょう。
お祝い膳のメニュー
お食い初めのお祝い膳は、ご飯・汁物・おかず3品で構成される「一汁三菜」が基本です。
一般的には次の5つを用意します。
- 赤飯
- 鯛の尾頭付き
- 煮物
- 汁物(お吸い物)
- 香の物(漬物)
この献立には「赤ちゃんが健やかに育つ上で必要な食材(穀物・海のもの・山のもの・飲み物・塩)」を与えるという意味があり、それぞれに縁起のいい食材が使われます。
赤飯
日本では古くから、赤色には邪気を払う力があると信じられてきました。
お祝いメニューの定番でもある赤飯には、「魔よけ」「厄払い」「無病息災」などの意味が込められています。
鯛の尾頭付き
鯛は背中が赤く腹が白い「紅白」の色合いと「めでたい」の語呂合わせから、縁起のいい魚とされています。
栄養価が高く他の魚に比べて長生きするため、長寿の縁起物でもあるようです。
さらに、頭も尾も付いたままの「尾頭付き」には「首尾一貫(ひとつの事を最初から最後までまっとうする)」という意味もあります。
煮物
煮物のレシピにこれといった決まりはありませんが、縁起のいい意味を持つ食材をメインに作られることが多いようです。
見た目の彩りや栄養バランスも考慮に入れて選びましょう。
煮物と相性がいい縁起物には以下のようなものがあります。
- レンコン:将来をよく見通す、「ん(運)」がつく
- ニンジン:厄を払う赤色、「ん(運)」がつく
- タケノコ:立身出世、家運向上、すくすくと健やかに育つ
- エビ:長寿(腰が曲がるまで長生きする)
- タコ:「紅白」の色合い、「多幸」の語呂合わせ、「八」本足(「八」は末広がりで縁起がいい)
- 里芋:子孫繁栄、将来子宝に恵まれるように
- 黒豆:「まめ」に働けるように
- 昆布:「よろこぶ(喜ぶ・養老昆布)」の語呂合わせ
汁物(お吸い物)
お吸い物には、赤ちゃんがお乳を「吸う」力が強くなるようにという願いが込められています。
お食い初めでは蛤(はまぐり)のお吸い物を用意するのが一般的です。
蛤は二枚貝で、同じ蛤の貝殻はぴったり合うことから「夫婦円満」の縁起物として知られています。
平安時代には、たくさん並べた貝殻から対になる貝を見つける「貝合せ」という遊びでも使われました。
蛤のお吸い物には「良縁に恵まれるように」「将来結ばれる人といい夫婦になれるように」という意味が込められています。
香の物(漬物)
香の物は「幸(こう)の物」にかけた縁起物です。
本来は梅干しを使用しますが、その土地の名産品や季節の野菜を漬け込んだものを使うことも多いようです。
香の物の代わりに、紅白なますやタコの酢の物を添えることもあります。
- 梅干し:シワシワになるまで長生きできるように
- 紅白なます:「紅白」の色合い、お祝い飾りの「水引」に似ている
食器
お食い初めで使う食器は漆塗りの御膳です。
男の子は内外ともに赤、女の子は内側が赤で外側が黒のものを使います。
自宅で行う場合は、お食い初めの後も普段使いできるベビー食器を使うことも多いようです。
特にこだわりがない場合は、もとからおうちにある食器を使ってもかまいません。
記事の後半で当店のお食い初め食器をご紹介していますので、気になる方はぜひ最後までご覧ください。
祝い箸
祝い箸とは、お食い初めに限らずお祝いの席で使われる箸で、両端が細くなっているのが特徴です。
この形は「片方は人間が食べるのに使い、もう片方は神様が食べるのに使うため」といわれています。
祝い箸が縁起物とされるのは、神様と人が同じ食事を味わい、神様と親密になることで加護を願う「神人共食(しんじんきょうしょく)」という考え方によるものです。
「両口箸(りょうくちばし)」「丸箸(まるばし)」「俵箸(たわらばし)」「柳箸・家内喜箸(やなぎばし)」とも呼ばれます。
歯固め石
お食い初めの最後に行う「歯固めの儀式」で使います。
歯固めの儀式は「石のように丈夫な歯が生えるように」という願いを込めて行うものです。
ベビー用品店やネットでも販売されていますが、使用する石の形や大きさに決まりはなく、河原や自宅の庭で拾ったものでもかまいません。
ただし、赤ちゃんの口に触れるものなのできちんと消毒はしておきましょう。
一般的には、お宮参りのときに神社で借りたりもらったりしたものを使うケースが多いようです。
料理の宅配や食器のレンタルサービスでは、歯固め石もセットに含まれていることがあります。
また、一部地域では歯固め石の代わりにタコやクルミ、アワビなどの固い食材を使うところもあるようです。
お食い初めの服装に決まりはある?
伝統的なお食い初めで赤ちゃんの正装とされているのは「色付きの小袖(こそで)」です。
レストランやホテルなど洋風のお店で行うなら、赤ちゃん用のセレモニースーツ・ドレスも選択肢に入ります。
とはいえ、慣れない服装で赤ちゃんがぐずってしまうこともあるため、無理に晴れ着を着せる必要はありません。
よそ行きの普段着など、いつもとは違う特別感がわかる服を用意すれば十分です。
赤ちゃんが着る服の雰囲気に合わせて、パパママもフォーマルな服を準備しておきましょう。
赤ちゃんが和風の服装なら着物、洋風ならワンピースやスーツスタイルがおすすめです。
お食い初めのやり方
手順や内容は地域によって異なる場合がありますが、ここでは一般的なお食い初めのやり方をご紹介します。
食器の並べ方
ご飯はお膳の左手前、汁物は右手前、煮物は左奥、香の物は右奥、歯固め石は中央に並べます。
鯛の尾頭付きはお膳の外に、頭が左側に来るように置きましょう。
料理を食べさせる人
お食い初めで赤ちゃんに食べさせる役をするのは「養い親」と呼ばれる人です。
養い親はお食い初めに参加している身内の中でもっとも年長かつ同性の人で、「長寿にあやかれるように」という意味があります。
食べさせる順番
料理を食べさせるマネは、以下の順番で3回繰り返します。
お食い初めの儀式はあくまで「食べさせるマネ」をするだけです。
アレルギーの心配もあるので、お箸を口につけずに近づけるだけでもかまいません。
歯固めの儀式
食べさせるマネが終わったら、最後に「丈夫な歯が生えますように」と願いを込めながら歯固めの儀式を行います。
料理と同じように、箸で石に触れてから赤ちゃんの口にちょんちょんとつけるやり方と、歯固め石を直接口に当てたりしゃぶらせたりするやり方があるようです。
歯固め石の大きさによっては誤飲の可能性もあるので、十分注意して行いましょう。
お食い初めのあとの食器の使い道
一からすべて買い揃えて準備した場合、気になるのは使い終わった食器の使い道。
きちんとした漆塗りのお膳は高価なものなので、お食い初めが終わったからといってすぐ処分してしまうのはもったいないことです。
お食い初め食器のおもな使い道には次のようなものがあります。
- お椀など一部を日常使いする
- お正月や記念日などのお祝いごとで使う
- 下の子が生まれたときのために取っておく
- 親戚や友人に譲る
- フリマアプリやリサイクルショップで売る
- 神社に奉納する
お食い初め食器を両親や親戚に買ってもらった場合は、その後の使い道や処分の仕方について話し合っておきましょう。